歩かないと損をする、という設計 ── 損失回避を「歩く動機」に変える
人は、利益を得る喜びよりも、損失の痛みを強く感じます。この認知のかたちを「歩かないと損をする」仕組みに変換することで、続きにくいウォーキングを続けやすくする。運動サプリ®の設計思想を、行動経済学の視点から紐解きます。
文: 谷本広志 Hiroshi Tanimoto
運動サプリ®を試してみる
「健康のために歩こうと思った。けれど続かない」
これは、意志の弱さだけの話ではありません。
人は誰でも、未来の利益よりも、目先の楽さを優先しがちです。
今ソファに沈む心地よさのほうが、半年後に検査値が改善される可能性よりも近く、確実に感じられるからです。
これは行動経済学で 現在バイアス と呼ばれる、人間に共通する認知のかたちです。
損失回避という、人の偏り
行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが示したように、人は同じ 1,000 円でも、得たときの喜びより、失ったときの痛みを強く感じます。
これは、プロスペクト理論の核となる 損失回避 という性質です。
ところが、健康行動の設計において、この性質が十分に活用されてきたとは言いにくい状況があります。
「歩いたらポイントがもらえる」
「達成したら景品がもらえる」
多くの健康アプリは、利得側のインセンティブ で人を動かそうとしてきました。
しかし、利得は現在バイアスに弱い。
「将来のポイント」と「今のソファ」を比べると、ソファの心地よさが勝ってしまうことが多いのです。
だから、続かない。
設計を反転させる
運動サプリ®は、この設計を反転させました。
「歩いたら得をする」ではなく、
「歩かないと損をする」 という仕組みです。
ウォーキングチャレンジを作るとき、チャレンジに紐づく応援金は、あらかじめスマートコントラクトに供託されます。
目標を達成すれば、設定した配分に従って、応援金はチャレンジャーや受取人に分配されます。
一方で、目標を達成できなければ、自分や応援したい人が受け取れるはずだった応援金は、事前に定めた別の配分先へ移ります。
ここで効くのは、3 種類の損失です。
- 自分のお金を失う ── 受け取れるはずだった応援金を受け取れなくなる。
- 大切な人の利益を失わせる ── 自分が歩かなかったことで、家族や友人が受け取れるはずだった応援金が失われる。
- 信頼を失う ── 周囲に「歩く」と宣言した以上、未達は信頼の損失になる。
特に 2 つ目は、損失回避と利他性 の組み合わせです。
自分のためだけではなく、大切な人が受け取れるはずだったものを失わせたくない という気持ちが、ソファを離れる力に変わります。
コミットメントとしての応援金
応援金を事前に供託するという行為そのものが、行動経済学でいう コミットメント です。
コミットメントとは、未来の自分が途中でやめてしまわないように、現在の自分があらかじめ仕組みをつくっておくことです。
オデュッセウスが、セイレーンの歌に惑わされないよう、自らをマストに縛らせたように。
健康行動においても、「歩かなかったら損をする」状態に自分を置くことで、現在バイアスを越える力が生まれます。
意志に頼らない。
仕組みで支える。
これが、運動サプリ®の発想です。
まずは、自分に合ったウォーキングチャレンジを作ってみませんか。
JPYC というインフラ
この応援金の仕組みを実装するために必要だったのが、円ベースで扱えるブロックチェーン上の通貨 でした。
ここで、JPYC が前提インフラとして機能しています。
日本円に連動するステーブルコインであるため、応援金の額面を円で考えることができます。
ユーザーは「1,000 円を歩く理由に変えた」と、直感的に理解できます。
また、応援金をスマートコントラクト上で供託し、条件に応じて配分するためには、オンチェーンで扱える通貨であることが重要です。
JPYC があることで、運動サプリ®は「歩く理由」を、単なる気合いやポイントではなく、実際の経済的なコミットメントとして設計 できました。
行動変容アプリにとって、JPYC は単なる決済手段ではありません。
歩く理由を成立させる金融インフラ です。
さらに、AI が日常の意思決定に入り込みつつある時代において、現金を直接扱えない AI が代わりに動かせる通貨もまた、JPYC のようなオンチェーン通貨です。
健康行動の自動化や、AI による個別最適化が広がっていくとき、その経済的な裏側を支えるのは、このようなインフラです。
続けるためのアプリ
運動サプリ®は、特別に意志の強い人のためのアプリではありません。
意志が弱くても続けられるように。
途中でやめたくなる自分を、仕組みで支えられるように。
損失、応援金、そして周囲の人との関係を組み合わせることで、歩く理由を外側につくる行動変容アプリ です。
歩く理由は、必ずしも自分の中にあるとは限りません。
それは、設計できるものです。
そして外側につくった理由が、続ける力として自分に返ってきます。
歩きたい。でも、なかなか続かない。
そう感じたら、まずは運動サプリ®で小さなチャレンジを作ってみてください。
Share