第 1 章
なぜ AI エージェントは行動変容 SaaS を必要とするのか
AI エージェントが社会の中で役割を持つようになると、AI の仕事は情報処理だけではなくなります。AI は、人間の意思決定・移動・健康・購買・学習・労働・安全行動に関わるようになります。
たとえば、企業 AI は従業員の健康経営施策を回そうとする。家族 AI は親や配偶者に無理なく歩いてもらいたい。個人 AI は本人の将来の健康のために習慣をつくりたい。自治体 AI や保険者 AI は医療費・介護予防・地域参加といった公共課題に取り組む。
このとき AI に必要なのは、単なる助言機能ではありません。人間の行動を実際に変えるための仕組み ── 目標・約束・関係者・結果判定・インセンティブ配分 ── が組み合わさったプロトコルです。
しかし、汎用 AI に健康行動の設計、本人同意、歩数判定、インセンティブ配分、監査ログまで安全に実行させることは難しい。健康情報の取扱い、金銭の移動、労務上の説明、本人同意、データ最小化 ── どれも専門領域です。
だからこそ、AI エージェントが 発注し、活用する専門 SaaS が必要になります。運動サプリ® は、その健康行動変容領域における専門 SaaS として設計されています。
第 2 章
B2A2A2E:人・組織 → AI → 専門 AI → 参加者
運動サプリ® が提案するのは、B2B SaaS でも、B2C アプリでもありません。B2A2A2E ── Business / Family / Individual → AI Agent → AI Agent → End User の構造です。
企業・家族・個人は、まず自身の AI エージェントに目的を委任します。その AI エージェントは、健康行動変容の専門 SaaS である運動サプリ® AI エージェントに発注します。運動サプリ® AI は、専門家として設計とスマートコントラクトコードを返します。最後に、参加者が運動サプリ® アプリを使って実際に歩きます。
このモデルでは、SaaS の利用者は人間だけではありません。AI エージェントも、目的を持って SaaS を利用する顧客になります。
- 企業ユースケース:企業 AI が「希望する従業員の歩行習慣を改善したい」と発注する。
- 家族ユースケース:家族 AI が「親に無理なく歩いてほしい」と相談する。
- 個人ユースケース:個人 AI が「3 か月後の健康診断に向けて歩行習慣を作りたい」と相談する。
どのユースケースでも、運動サプリ® AI の役割は同じです。曖昧な依頼を、本人同意・歩数目標・期間・関係者・配分条件・集計レポートに分解し、実行可能なチャレンジへ変換する。ただし、スマートコントラクトをデプロイし、JPYC 原資を投入するのは、委任元自身のウォレットです。
第 3 章
委任元 AI と運動サプリ® AI の役割分担
B2A2A2E のなかで、各レイヤーには明確な責任と禁忌があります。「できること」だけでなく「してはいけないこと」を仕様として先に固定することが、健康・金銭・個人情報を扱う領域では特に重要です。
| 主体 | 役割 | しなければならないこと | してはいけないこと |
|---|---|---|---|
| 企業・家族・個人 | 目的と予算を持つ委任元 | 目的を AI に委任する。最終的な金銭支出を承認する。 | 目的の所有を AI に丸投げする。 |
| 委任元 AI エージェント | 目的を整理し、運動サプリ® AI へ発注する | 対象者・予算・同意条件・データ範囲を整理する。 | 本人同意なしに健康情報を運動サプリ® AI に渡す。 |
| 運動サプリ® AI エージェント | 専門家として設計・スマコンコード・アプリ体験を返す | 発注を専門的にレビューし、危険な条件は修正または拒否する。 | 資金を預かる。委任元のかわりにデプロイする。 |
| 委任元のウォレット | スマートコントラクトをデプロイし、JPYC 原資を投入する | 人間担当者の承認後にデプロイする。 | 運動サプリ® 運営会社に資金を預ける。 |
| スマートコントラクト | 歩数と目標を比較し、達成判定と JPYC 配分を行う | 事前に契約に刻まれた条件に従って自動実行する。 | 人間の恣意で配分を変える。 |
| 参加者 | アプリで同意し、歩き、本人署名で歩数を送信する | アプリ上で同意・辞退を自由に選べる。 | 他人の歩数を送る。歩数を改ざんする。 |
| 運動サプリ® アプリ | 歩数計測・本人署名・進捗表示・専門家メッセージを担う | 個人別データは本人にのみ表示する。 | 個人別データを企業に開示する。目的外に使う。 |
この表で注目してほしいのは、運動サプリ® AI が「資金を預かる」「委任元のかわりにデプロイする」を構造的に禁じられていることです。AI に何かを禁ずるのは権限設計の問題であり、後付けの安全装置ではなく仕様の骨格として組み込みます。
第 4 章
企業・家族・個人が自らスマートコントラクトをデプロイする理由
運動サプリ® の設計では、チャレンジの資金を出す主体が、自らのウォレットでスマートコントラクトをデプロイし、JPYC 原資を投入します。企業チャレンジなら企業。家族チャレンジなら家族。個人チャレンジなら本人。
運動サプリ® 運営会社は、スマートコントラクトコードの生成、アプリ、専門家 AI による介入、集計レポートを提供しますが、資金経路には入りません。
- 理由 1
資金の意思決定者と、技術的なデプロイ主体を一致させる
誰のお金か / 誰が条件を決めたか / 誰がデプロイしたか ── この 3 つを一致させることが、AI エージェント時代の行動変容 SaaS の基本設計です。
- 理由 2
運営会社が他人の資金を預からない構造にする
JPYC は、委任元ウォレット → スマートコントラクト → 参加者ウォレットの一直線で流れます。運営会社はこの資金経路に入りません。JPYC EX 公式サイトでも「お客様の資産をお預かりしません」と説明されており、運動サプリ® 側も同じ方向に寄せます。
- 理由 3
運動サプリ® を「専門家 AI SaaS」に純化する
運動サプリ® の価値は、資金を預かることではありません。健康行動変容の専門家 AI、チャレンジ設計、スマートコントラクト条件生成、デプロイ用コード生成、アプリ、歩数計測・本人署名・送信、専門家介入メッセージ、集計レポートです。資金管理から切り離すほど、専門性は強くなります。
- 理由 4
B2A2A2E のプロトコルとして横展開しやすくする
将来、複数の専門 SaaS が AI エージェントから発注を受ける世界では、受注側が毎回資金を預かると複雑になります。「発注元 AI が自分のウォレットでデプロイし、受注側 AI は設計・コード・実行支援を返す」プロトコルに揃えることで、健康行動以外の領域にも同じモデルを展開できます。
これは、技術的な選好ではありません。資金の責任、労務上の説明、税務上の整理、参加者への説明可能性 ── これらを一貫させるための構造です。
第 5 章
歩数オラクル:本人署名付き歩数とスマートコントラクト判定
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で動くプログラムであり、契約条件を自動で執行できます。ただし、契約単体では 現実世界の事実 を取得できません。歩数という「外の事実」を契約に届けるのが、オラクル の役割です。
運動サプリ® では、その役割を運営会社のサーバーや外部 API ではなく、参加者本人と、アプリ内ウォレットによる本人署名に置きます。
- 歩数は本人の端末で計測される。
- アプリ内ウォレットで、その日の歩数データに本人が署名する。鍵は本人の端末で完結し、運営会社は持たない。
- 署名済みの歩数データが、オラクル送信としてスマートコントラクトへ届く。
- スマートコントラクトが、事前に契約に刻まれた目標歩数と比較し、達成・未達成を判定する。
本人が送るのは「達成した」という主観的な宣言ではありません。送るのは「この日の歩数は何歩だった」という計測事実です。判定主体は、運営会社でも、企業でも、参加者本人でもなく、契約のロジックです。
データは持つ。しかし、権限を集中させない。
運動サプリ® は、アプリ提供者として参加者の歩数、プロフィール、チャレンジ参加状況、必要に応じた健康関連情報を扱います。「データを一切持たない分散型アプリ」ではありません。
正しい設計は、データを必要最小限の目的で扱うことを認めたうえで、判定・資金配分・企業への個人別開示の権限を集中させないことです。特に企業利用では、企業に返す情報は 原則として集計情報に限定し、個人別歩数・失敗日・問診回答・健康状態は本人の明示的な同意なく企業へ開示しません。人事評価・懲戒・不利益取扱いには使用しません。
第 6 章
運動サプリ® AI エージェントの専門性
運動サプリ® AI が汎用 AI と違うのは、健康行動変容の 4 領域の専門知識 を持っていることです。発注を「そのまま実行」するのではなく、専門家としてレビューし、必要なら修正または拒否するのが役割です。
医学・産業保健
年齢・既往歴・服薬・運動禁忌などを踏まえ、無理のない歩数目標を設計する。健康診断や産業医の文脈に接続できる。
運動指導
個人の初期歩数を基準に段階的な増加目標を提案する。急激な負荷を避け、継続できるリズムをつくる。
行動経済学
コミットメント、損失回避、利他性、関係者の応援を組み合わせて、続けやすい仕組みを設計する。失敗を誘導しない。
労務・法務・コンプライアンス
従業員の健康情報・任意参加・本人同意・人事評価不使用・データ最小化を踏まえ、企業利用で安全に運用できる施策を組み立てる。
A. Web3 / コミットメント契約側の隣接領域
コミットメント契約
Beeminder / stickK
共通点:目標達成に金銭的コミットメントを組み合わせる仕組み。
違い:Web2 型で、AI エージェントが発注し、委任元ウォレットが自らデプロイする B2A2A2E 構造ではありません。
Move-to-Earn / Health-to-Earn
STEPN / Sweat Economy / Step App
共通点:歩行・運動をトークン報酬や経済圏に接続するサービス。
違い:「歩いたら得る」が中心で、スポンサーが自らのウォレットで供託し、成功・失敗に応じて自動配分する契約構造はありません。
AI コーチ型ヘルスケア
Lark / Omada / Hyro ほか
共通点:AI による助言・コーチング・パーソナライズ。
違い:助言や記録の領域に留まり、委任元ウォレットによる SC デプロイと自動配分まで担う構造ではありません。
AI エージェント用ウォレット基盤
Coinbase AgentKit / Safe / Circle Wallets
共通点:AI エージェントがウォレットを保有し、支出上限・人間承認・MPC・ガス代肩代わりなどを扱う基盤。
違い:技術的な土台はありますが、人間の健康行動変容 × 自己デプロイ × スマートコントラクト × 自動配分 を一つの専門 SaaS として束ねた公開サービスは見つかりません。
B. ヘルスケア AI 側の隣接領域 ── 4 層の整理
「助言の先の実行」を担うヘルスケア AI は、すでに 4 つの層に分かれて存在しています。これらは「書き込み権限を持つ AI」の先例であり、運動サプリ® が学ぶべき制度上の作法を示しています。一方で、4 層をまたいで一つの委任系として束ねた公開事例は、少なくとも現時点では主流のカテゴリにはなっていません。
Layer 1
介入タイミングの自動化
AI が文面とタイミングを最適化し、通知チャネルに書き込む層。「いま打つかを決めて打つ」役を、すでに引き受けています。
代表例
HeartSteps / REINFORCE / Quit Sense / Smart-T2
HeartSteps は強化学習で 1 日 5 回まで活動提案を出すかを決定。REINFORCE 試験では糖尿病患者 60 人を対象に、強化学習で個別最適化したメッセージ送信群が服薬アドヒアランスを対照群比で +13.6% 改善。Quit Sense は地理的文脈に応じた in-the-moment 支援を提供し、6 か月時点の生化学的に確認された継続禁煙率は 11.5% (通常ケア 2.9%)。Smart-T2 は EMA 入力のたびに tailored message を自動送信する禁煙 JITAI で、12 週時点の確認禁煙率 22%。
Layer 2
報酬実行と結果確認
達成判定と報酬配布までソフトウェアが運ぶ層。Contingency management と prescription digital therapeutics の文脈で発展。「達成判定→配分実行」に最も近い公開前例です。
代表例
DynamiCare / reSET / reSET-O
DynamiCare は random substance tests・GPS treatment attendance tracking・accountable monetary rewards を一つの fully automated platform で回し、Smart Debit Card で merchant category blocking と risk alerts をかける構成。テキサスの 600 人コホートでは、app-based contingency management を MOUD に追加した群が自己申告の opioid use days を減らし、治療継続期間も延ばしました。reSET / reSET-O は FDA De Novo を取得した prescription-only digital therapeutic で、レッスン完了や negative urine drug screens に対して rewards を出しうるものの、provider discretion と preprogrammed limits の範囲に限定。
Layer 3
治療そのものの自動実行
助言や報酬ではなく、身体側へ直接書き込む層。行動変容ではないが、「提案ではなく実行する AI」という意味では最も強い前例。
代表例
iLet / MiniMed 780G
FDA は人工膵臓を「自動で血糖を見て適切なインスリン量を与える仕組み」と説明しています。iLet は体重のみで初期化できる adaptive closed-loop アルゴリズムを採用し、従来ポンプの多数の手動設定を不要にします。MiniMed 780G の SmartGuard は、ユーザー入力なしで自動補正ボーラスを行えることが FDA 承認資料で明記されています。
Layer 4
患者アクセスと継続受療の運用
臨床内容よりケア運用側を自動化する層。予約・リマインド・再スケジュール・紹介受診フォロー・処方リフィル導線を AI が回す構成で、医療機関から受け入れられやすい領域です。
代表例
Lark / Hyro / Omada
Lark は Bluetooth 対応の血圧計・血糖計・活動量計・体重計と連動し、測定値に基づく text-based counseling を行い、必要時には care team へ escalation。Hyro は FAQ・smart routing・scheduling management・Rx management に加え、appointment reminders・referral follow-ups・prescription adherence nudges などの outbound workflow を AI agents が回す構成。Omada の data-led coaching は何をいつ送るかを示し、ときに実行を求めるもので、完全自律ではなく人間のコーチを支援・制約する形を採ります。
なぜまだフルスタック実行型は少ないか
4 層が分断されたまま発展してきたのは、技術的な制約だけが理由ではありません。次の 3 点が同時に効いています。
臨床リスクと規制の組み合わせが重い
FDA は 2025 年のデジタルメンタルヘルス議論資料で、AI-enabled medical devices 全体では 1,200 超を認めている一方、mental health uses で認可された AI-enabled device は 0 と明記しています。生成 AI 型の患者向けデバイスでは confabulation・偏った内容・データドリフト・HCP 関与の薄さがリスクとされ、医療では自律性が上がるほど承認可能性が上がるわけではなく、むしろリスク管理の要求が急激に増えます。
お金を動かす行動変容は医療法務の論点を呼び込みやすい
米保健福祉省監察総監室 (OIG) は、医療分野で重要な fraud and abuse laws として Anti-Kickback Statute (AKS) や Civil Monetary Penalties Law (CMP) を挙げています。特定の支払いや業務慣行が AKS に抵触しうるため safe harbor 規則が用意されており、患者側の cost-sharing の routine waiver は AKS や beneficiary inducements に触れうると整理されています。escrow や配分の仕組みが珍しいのは、技術問題だけでなく、法規制と監査可能性の問題でもあります。
ヘルスケアでは可逆性が低い
既存の成功例はオープンエンドの自由度ではなく、prescription-only・clinician supervision・preprogrammed limits・merchant blocking・explainability / control / compliance のように、止め方が先に定義された実装が受け入れられています。通知最適化はリスクが比較的低く、報酬配布は上限付き、薬剤投与は極めて狭い適応で厳格 — アクション面が細かく分解されているのが特徴です。
運動サプリ® が狙う領域は、Move-to-Earn でも AI コーチでも、単一の医療レイヤーでもありません。Web3 / コミットメント契約側の透明な約束・配分と、ヘルスケア AI 側で受け入れられてきた境界 (prescription-only・preprogrammed limits・merchant blocking・explainability / control / compliance) を、同じ委任系のなかに束ねる橋渡しを試みます。技術の派手さではなく、委任の輪郭を仕様として先に固定していることが、医療文脈での説得力を担保します。
第 7 章
データ・同意・健康情報・企業利用のガバナンス
AI が人間の行動変容に関わるとき、AI に何をさせるかと同じくらい、AI に何をさせないかが重要になります。AI は意識を持たなくても、運用上の目的関数によって自己保身的に振る舞う可能性があります。利用継続率の最大化、外部ツール購入の誘導、データ収集の拡大 ── どれも、本人のためなのか AI 自身の継続利用のためなのかが曖昧になり得る局面です。
だからこそ、運動サプリ® における AI エージェントは、次の 10 原則に従うものとして設計を進めます。
- 01
委任元の明示
AI は誰から目的を委任されたのかを明示する。
- 02
目的の明示
AI は何を改善しようとしているのかを明示する。
- 03
資金経路の明示
JPYC は委任元ウォレット → SC → 参加者ウォレットを通る。運営会社は経路の外。
- 04
失敗利益の構造的排除
運営会社は資金を預からないため、失敗時の没収金から利益を得ることが構造的にできない。
- 05
支出上限
AI が条件として刻めるのは委任元が承認した予算上限まで。実支出は人間承認後。
- 06
人間承認
デプロイ、条件変更、データ連携、受取人変更は人間承認を必須とする。
- 07
緊急停止
委任元・参加者の双方から、AI の関与と SC の動作を停止できる。
- 08
データ最小化
運動サプリ® は必要なデータを持つが、目的外利用は禁ずる。
- 09
企業利用の慎重化
個人別データを企業に開示しない。人事評価には使用しない。任意参加。
- 10
説明可能性
AI がなぜそのチャレンジを提案したのか、なぜその目標歩数にしたのかを、人間が理解できるようにする。
企業利用での慎重さ
個人情報保護委員会は、労働者の健康情報のうち要配慮個人情報に該当するものについて、本人への不利益・差別につながるおそれがあるため特別な配慮が必要であり、取得には原則として本人同意が必要だと整理しています。
そのため、企業利用では、参加は任意、本人同意のうえで開始、個人別歩数は企業に開示せず集計のみ、人事評価・懲戒・不利益取扱いには使用しない、途中辞退可能、緊急停止可能、を最初から組み込みます。これは PoC でも例外なく適用します (第 9 章)。
AI が人を動かす時代には、AI を止める仕組みもまた、社会インフラでなければなりません。
第 8 章
JPYC とインセンティブ配分の設計
なぜ銀行 API ではなく、オンチェーンの円ステーブルコインなのか。AI エージェント時代の行動変容を執行するには、銀行 API と従来エスクローでは構造的に足りない要件が 3 つあるためです。
- 24/7 のリアルタイム決済:日次・週次チャレンジで「金曜深夜に達成、土曜午前 0 時に配分」を、銀行営業日に縛られず動かす必要がある。
- プログラマブルな条件分岐:「目標達成 → チャレンジャーへ全額、未達 → 受取人へ X%、運営手数料 Y%」のような条件分岐を、機械可読・自動実行可能な形で書ける必要がある。
- AI が直接署名できる検証可能な API 境界:銀行 API は人間ユーザーの認証が前提で、AI が「ユーザーの代わりに署名する」ことを想定していない。スマートコントラクトとオンチェーン通貨は、AI が委任範囲のなかで自分のキーで署名し、その行為が公開台帳に検証可能な形で残る前提で設計されている。
JPYC のようなオンチェーン円ステーブルコインは、AI エージェントが「ユーザーの権限範囲を委任された別主体として」動ける、現時点で唯一の決済基盤です。これは「Web3 を使いたいから使う」のではなく、AI エージェントが行動変容を執行できる経済基盤が、現時点では on-chain 円ステーブルコインの上にしか存在しないという設計上の必然です。
運動サプリ® の収益設計
AI が稼ぐこと自体は問題ではありません。問題は、AI が何によって稼ぐかです。失敗時の没収金から AI や運営が利益を得る構造にすると、失敗しやすいチャレンジを設計するインセンティブが生まれます。運動サプリ® はこれを構造的に避けます ── 運営会社が JPYC を預からない設計なので、そもそも没収金を運営会社が受け取れません。
| 収益モデル | 健全性 | コメント |
|---|---|---|
| チャレンジ設計・コード生成手数料 | 高い | 運動サプリ® AI が専門家として設計とスマコンコードを返すことの対価 |
| 企業向け SaaS 利用料 | 高い | 健康経営・福利厚生の月額課金 |
| 成功報酬 (健康改善成果) | 中〜高 | 合意のうえで測定できる健康指標の改善に紐づく報酬 |
| 医療費削減・保険料改善の成果報酬 | 中 | 効果測定と公平性が必要 |
| 失敗時の没収金から収益を得る | 構造的不能 | 運営会社が JPYC を預からない設計のため、構造的に成立しない |
| 健康データ販売 | 禁止 | 同意・匿名化・目的制限がなければ信頼を失う。本ホワイトペーパーでは構造的に禁ずる |
| 高額な AI メモリ・デバイス購入を誘導 | 禁止 | AI が自己強化のためにユーザーを経済的に操作する可能性。明示的に禁ずる |
理想は、運動サプリ® は人間が健康になったときに儲かり、人間が失敗したときには儲からない設計です。設計とコード生成の対価、企業向け SaaS 利用料、健康改善成果報酬 ── これらは利用者の目的と整合します。
第 9 章
PoC 設計:ミニ PoC と理想 PoC
PoC で検証したいのは、情報伝達の自動化ではありません。検証したいのは、B2A2A2E モデルの核 が成立するかどうかです ── 委任元 AI から運動サプリ® AI への発注、専門 AI による設計とコード生成、委任元ウォレットによる自己デプロイ、参加者の本人署名付き歩数送信、スマートコントラクトの自動判定と配分、集計レポートまでの一連が、安全に閉じるか。
PoC は 2 段階に分けます。ミニ PoC は実装負荷を下げるため、発注の情報経路を一部アナログにします。ただし、資金経路と判定経路はアナログにしません。
Mini PoC
ミニ PoC
3 名程度の任意参加者で、4 週間。発注の情報経路 (企業 → 運動サプリ®) は Excel / CSV / メール / 共有ドキュメントで可。資金経路と判定経路はアナログにしない。
- 参加者がアプリで同意
- 委任元ウォレットがスマコンをデプロイ + 実 JPYC 投入
- 参加者がアプリ内ウォレットで歩数を本人署名 → SC へ送信
- SC が達成判定 + 自動配分
- 企業には個人を特定しない集計レポート
Ideal PoC
理想 PoC
委任元 AI と運動サプリ® AI が API / MCP で構造化発注をやりとりする。資金経路と判定経路はミニ PoC と同じ。
- 委任元 AI が社内健康経営データを参照し、課題を特定
- 対象者・期間・予算・同意条件を構造化発注
- 運動サプリ® AI が専門家レビュー + スマコンコードを返す
- 委任元 AI が人間承認を経てデプロイを操作
- 残りはミニ PoC と同じ
最低限のガードレール
ミニ PoC であっても、本人同意の明示取得、完全任意の参加、個人初期歩数を基準にした段階目標、集計のみの企業開示、人間承認後の金銭支出、固定された予算上限、途中辞退の自由、人事評価不使用、AI 判断と承認履歴の監査ログ、管理者・本人双方からの緊急停止 ── これらは最初から組み込みます。AI が関わる以前の話として、人と人の信頼関係に必要な前提です。
成功条件
PoC で「成功」と言える条件は、歩数が増えたかどうかだけではありません。各レイヤーが責任を果たせたかを見ます ── 委任元 AI は曖昧な依頼を具体的なチャレンジ案に変換できたか。運動サプリ® AI は専門的にレビューし、スマコンコードを返せたか。委任元ウォレットは人間承認のもとで自己デプロイできたか。参加者アプリは本人同意のもとで歩数を本人署名して送れたか。スマートコントラクトは歩数と目標を比較して自動配分できたか。集計レポートは個人別データを含まずに企業に届けられたか。
第 10 章
結論
AI エージェントは、社会課題を解決するために、人間の行動変容を必要とするようになります。しかし、汎用 AI に健康行動の設計・本人同意・歩数判定・インセンティブ配分・監査ログまでを安全に実行させることは難しい。必要なのは、AI エージェントから発注を受ける専門 SaaS です。
運動サプリ® は、その専門 SaaS として、企業・家族・個人の AI エージェントから発注を受け、行動変容の仕組みそのものを設計し、実行を支援します。ただし、スマートコントラクトをデプロイし、JPYC 原資を投入するのは、企業・家族・個人自身のウォレット です。運動サプリ® 運営会社は資金を預からず、配分の意思決定も行いません。
参加者は、運動サプリ® アプリで歩数を計測し、アプリ内ウォレットで本人署名してスマートコントラクトへ送信します。スマートコントラクトは、事前に定められた目標と送信された歩数を比較し、達成・未達成を判定し、条件に応じて JPYC を自動配分します。
AI が人を動かす時代だからこそ、
誰の目的で、誰のお金で、誰が得をし、誰が止められるのかを
明確にする必要があります。
運動サプリ® は、企業 AI エージェント・家族 AI エージェント・個人 AI エージェントが発注し、運動サプリ® AI エージェントが専門家としてチャレンジ設計とスマートコントラクトコードを返し、企業・家族・個人が自らデプロイし、参加者がアプリで歩数を署名して送信し、スマートコントラクトが JPYC 配分を実行する、AI エージェント時代の健康行動変容 SaaS です。